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イングリット
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……夜分遅く、申し訳ありません。 どうしても、相談したいことがあって。
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イングリット
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……ありがとうございます。 その、私、自分の将来について悩んでいて。
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イングリット
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こんな戦争のただ中に、そんなことで 悩むのも馬鹿らしいかもしれませんが……
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イングリット
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先生にそう言ってもらえると、救われます。 ……他の人には相談しにくかったのです。
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イングリット
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みんな心を決めて戦っているのに、 私だけがうじうじと迷い続けているようで。
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イングリット
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……私は、子供の頃から ずっと騎士に憧れてきました。
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イングリット
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城主としての騎士というよりも、 貴人に直接お仕えする騎士のほうですね。
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イングリット
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ですが、父はガラテア家の存続のため、 私の結婚を望みました。
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従わなければよかった
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イングリット
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……それは、できませんでした。 父の苦悩をずっと側で見てきましたから。
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イングリット
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父は、私なんかよりも、もっと多くの 苦労を背負い込み続けてきたんです。
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イングリット
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私が肉や魚を口にしている時、 父はいつも味のしない汁を啜っていました。
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イングリット
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あんな量ではとても足りないでしょうに、 不満一つ漏らさなかった……。
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イングリット
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そんな父の姿を見ていたら、騎士になりたい などと……言えるはずがなかったのです。
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イングリット
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……戦争が始まって、父は私に、 祖国のため戦うことを許してくれました。
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イングリット
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結局、今となってはそんな父を 裏切ることになってしまったのですが……
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イングリット
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父と決別した今、 私の夢を阻むものはありません。
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イングリット
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ですが、この先、騎士になれたとしても、 私の心の奥には……
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イングリット
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ずっと何かがつかえたままになるような、 そんな気がして。
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イングリット
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騎士ではなく貴族に生まれた者として、 果たせる役目があったのではないか、と……
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イングリット
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……そう、ですよね。 私も、この苦しみを受け入れなくては。
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イングリット
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両立……難しいことを言いますね、先生は。 それでも……模索する価値はありそうです。
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イングリット
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……そう、ですよね。 私も、この苦しみを受け入れなくては。
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イングリット
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両立……難しいことを言いますね、先生は。 それでも……模索する価値はありそうです。
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イングリット
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……そうですね。振り返ったところで、 もう過去には戻れないのですから。
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イングリット
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……ふふ、士官学校を出ても、 やっぱり先生は、先生なのですね。
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イングリット
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私たちの悩みを受け止めて、 こうやって、背中を押してくれる。
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イングリット
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本当に……感謝しています、先生。
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イングリット
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どうかこれからも私たちの…… いえ、私の人生の、先生であってください。