ディミトリ & アネット Ａ

アネット
あの、殿下！ 実はまたお願いが……

ディミトリ
またギュスタヴの話か？　話の種なら まだまだあるが、そろそろ本人に……

アネット
あ、えっと、父さんの話じゃなくて。 今日は、殿下の話が聞きたくって。

ディミトリ
俺の話……？

アネット
あたし、父さんのことばっかり聞いちゃって 殿下のことは全然聞けなかったから。

ディミトリ
……参ったな。そう期待されても、 特に面白い話もできないと思うんだが。

アネット
別に、面白い話が聞きたいとか そういうわけじゃないですよ！　ただ……

アネット
……あたし、殿下のこと、知ってるようで なんにも知らなかったんだなって。

アネット
あの日……大修道院で再会した時も、 何て声をかけていいのかわからなくって……

アネット
だから、せめて殿下の好きな食べ物くらい 用意してあげよう、って思ったんです。

アネット
好きなものを食べた後って、 何だか元気が出てきますから。でも……

アネット
いざ厨房に立って、あたし、殿下の好きな 食べ物さえ知らなかったんだって気づいて。

ディミトリ
……そうだったのか。

ディミトリ
……しかし、好物と言われても、難しいな。 食事には、本当にこだわりがないから……

ディミトリ
ああ、そう言うアネットは、 確か甘いものが好きなんだったよな？

アネット
えへへ、そのとおりです！　あたし、 甘いお菓子を食べてる時が一番幸せで……

アネット
……あ、殿下、知ってます？ 王都の有名なお菓子屋さん！

ディミトリ
ああ……たびたび行列ができていた店だな。 城の兵士たちも、よく噂していた。

アネット
あのお菓子、とっても美味しいんですよ！ 値段は張るけれど、あたし、大好きで。

アネット
あたし、父さんがいなくなる前までは 家族で王都に住んでいたんですけど……

アネット
その頃から、たまに食べてたんですよ。 えへへ、また食べたいなあ……。

ディミトリ
……なあ、アネット。お前はこの戦争が 終わったら、どこへ帰るつもりだ？

ディミトリ
確か士官学校時代は、ドミニク男爵の元に 身を寄せていたと聞いていたが……

アネット
父さんとは再会できたし、 また家族一緒に、王都で暮らしたいかな。

アネット
そうしたら、戦争が終わった後にも また殿下とお会いできますし、ね！

ディミトリ
……困ったな。お前の父親には、まだまだ 働いてもらわなければならないんだが。

アネット
もう、父さんだって結構な年なんですから。 あんまり働かせすぎないでくださいね！

ディミトリ
……ああ、そうだな。 肝に銘じよう。