ディミトリ & イングリット Ｂ＋

イングリット
……殿下。 先日は、本当に申し訳ありませんでした。

イングリット
あの後、冷静になって考えてみたのです。 殿下がどんな思いで、ああ仰ったのか……。

イングリット
私は自分の考えばかりに囚われて…… 浅はかだったと思います。

ディミトリ
……いや。俺のほうこそ、本当に悪かった。 あんなことを言うつもりはなかったんだ。

ディミトリ
子供じみた八つ当たりだ。 詰ってくれていい。……本当に、最低だ。

ディミトリ
……自分の口下手さには嫌気が差す。 いま一度、きちんと話させてくれるか？

イングリット
えっ？ ……はい、もちろんです。

ディミトリ
俺はな、ダスカーで幾多もの死体を見た。 もちろんあいつの……グレンの死体もだ。

ディミトリ
イングリット、お前は見ていないはずだ。 あいつを連れ帰ることはできなかったから。

ディミトリ
痛みと無念の中で、苦しみながら死んで いったのだろう。……そんな顔をしていた。

イングリット
………………。

ディミトリ
あの荒野には、英雄譚に語られるような 美しく誇り高い死など、一つも無かった。

ディミトリ
お前にはあんな死に方をしてほしくない…… たとえそれが忠義と矜持のためであっても。

イングリット
……王は民に、あるいは兵や騎士に、 自分のために戦って死ねと命じるものです。

イングリット
彼らの命を切り捨てなければ、 成し遂げられないこともあるのですから。

イングリット
……自分のために死ぬなと仰る殿下は、 人の上に立つには甘く、優しすぎます。

ディミトリ
反論の余地もないな。 ……失望したか？

イングリット
……いいえ。私は、 そんな殿下にだからこそ、お仕えしたい。

イングリット
私は騎士として、あなたの甘く優しい理想を 側でお支えしたいと……そう思います。

ディミトリ
……どうしたんだ、イングリット。 この間は、あれだけ頑なだったのに。

イングリット
気づかされたのです。私は、とても 大切なことから目を逸らし続けていた、と。

イングリット
ありがとうございます。あなたのおかげで、 私は……ようやく前に進めます。

ディミトリ
………………？